大学を見学して回る俺に一人の女子大生が声をかけた


大学図鑑! 2010


122 :水先案名無い人2012/01/18(水) 00:44:25.57 id:NCnqHiQC0
「へー、こっちはもう落葉してんのか…。ヘーックショイ!
それにしても寒いったらありゃしねえ」
震えながら校内を見学して回るおれに一人の女子大生が声をかけた。
「あらアナタ見学の方?」
「えぇ、まぁ…やっぱ東京はでっかいですね」
と、お愛想で感想を述べると女子大生は突然大声で笑い出した。
「あはは!あ〜おかしい。キミちょっと田舎ものすぎだヨ〜」
国の言葉が無意識に出てたのかもしれない。赤面してうつむくおれを気遣うように
おれが片手にしていた文庫を取り上げて言葉を続けた。
「あら?その文庫本、ちょっと見せて。萩原朔太郎…。『群集の中の孤独』…か。
この町にぴったりの言葉ね」
 彼女はそう言いながらもう一度笑ってみせた。
 その笑顔はどこか儚げで、まるで「今の自分がそうだから」と呟いているように見えた。
「……」
 足元を走り抜ける木枯らしに、再度身を振るわせる。
 すっかり葉も枯れ落ちてしまった桜の木が彼女の横顔と被って見えた。
「寒っ……」
 無意識に漏れた呟きに我に返ったのか、彼女は俺の手に文庫本を戻すと親指で構内を指ししめす。
「あーっとゴメン。こんな所で立ち話もなんだね、中に入らない?」
「えっ?」
「まだ構内見てないんでしょ? ヒマなお姉さんが案内してあげるよ」
「えっ、良いんですか?」
「良いの良いの。ヒマしてんだからさー」
「げほっ」
 バンバンと背中を叩かれると、寒さでやられていた肺が悲鳴を上げる。
「あ、ゴメンゴメン。でも少し大げさだなーキミ」
 演技のつもりは微塵も無い。むせ返りながらも俺は半ば強引に構内へと導かれていった。



123 :水先案名無い人2012/01/18(水) 00:45:41.65 id:NCnqHiQC0
 一通り各教室を見終えた俺たちは、ロビーに置かれた椅子にもたれかかり一息ついていた。
 彼女はとても流暢に、そして笑い話を織り交ぜながら、一つ一つの部屋を丁寧に紹介して回ってくれた。
 喋り方のおかしな名物教授とか、この部屋の何番目の席に座ると必ず問題を解かされるとか。
 寮で起こった事件の話。仲の良い友達の話。
 大げさな身振り手振りを交えた、大方受験とは無関係な話ばかりの独演会が、楽しくて楽しくて仕方が無い。

 お陰でかなりの長時間を費やしてしまったことに気が付いたのは、最後の一部屋を回り終えた後だった。
「なんかごめんねー無理に付き合せちゃったみたいで。はい、コーヒーで良かった?」
「あ、有難うございます」
 差し出された紙コップを受け取ると、一口啜る。
「ほうっ……」
 と白い息が口から昇る。
 大きめに作られた通路を外からの冷たい風が吹き抜けていて、
 屋外ほど寒くはないにせよ若干このロビーは寒かった。
「はー暖けー……あちっ」
 続けてもう一口。慌てて飲んだため舌を軽く火傷してしまう。
「あははっ、慌てないの」
 彼女はそんな俺の田舎者っぷりを隣でココアを啜りながら楽しそうに眺めていた。
 視線が重なり気恥ずかしさで少し頬が赤くなっているのが自分でも解る。
 赤面してうつむく俺を気遣うように俺が片手にしていたコーヒーを手に取ると彼女は言葉を続けた。

「ところで良い壷があるんだけど」







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