小川洋子「人は現実を物語化して記憶にしていく」
小川 ・・・ 人は、生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかという
ことに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分
の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶にしていくという作業
を必ずやっていると思うんです。 ・・・
臨床心理のお仕事は、自分なりの物語を作れない人を、作れるように手助けする
ことだというふうに私は思っています。そして、小説家が書けなくなった時に、どうし
たら書けるのかともだえ苦しむのと、人が「どうやって生きていったらいいのかわか
らない」と言って苦しむのとは、どこかで通じ合うものがあるのかなと思うのですが、
いかがでしょうか。 ・・・
河合 おっしゃったことは、私の考えていることとすごく一致しています。私は「物語」
ということをとても大事にしています。来られた人が自分の物語を発見し、自分の
物語を生きていけるような「場」を提供している、という気持ちがものすごく強いです。
だからこそ、私のところに来られるような人たちは小説を読んで救われたり、ヒント
を得たりするんでしょう。苦しみを経ずに出てきた作品というのは、その人たちには、
魅力がないんじゃないかと思いますね。
(小川洋子・河合隼雄「生きるとは、自分の物語をつくること」)
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