今年読んだベスト本 2012

なんだか毎年思うんだけど、前置きとしてのこの文章は一体何を書けばいいのやらほんとに迷っちゃうんだよね。


正直な話、皆にシェアしなくちゃと思うほどものは読んでいないと思うし、「今年は何百冊読みました、特に痺れた十何冊をご紹介」的なよくある言い回しにより自分で自分のハードルを上げることもしたいとも思わない。だから前置きみたいに改めて語ることは特にないのです。


しかし、この自己満足ともいえるエントリーは自分自身の備忘録的に考えると必要だと思うので、そこは粛々と書き進めていきたいと思う。やっぱり数年後とかに「あ〜、あの頃こんなの読んでたんだなぁ」なんて感慨に耽りたいわけですよ、はい。


以下、これまでのベスト本。


そんなわけで、今年もとりあえず10作品ほど選んでみたのでどうぞよろしく。


ちなみに、今年読んだ本というだけで、今年発売された本ではないのであしからず。それから、ランキングとかではないので並び順には意味はありません。




空海の風景

 天才たる所以 「空海の風景」


空海の風景〈上〉 (中公文庫) 空海の風景〈下〉 (中公文庫)


文中に「いまさら改めて言うようだが、この稿は小説である」と途中出て来るのだけど、どちらかというと研究本という色の方が濃い感じの本書。空海のあらゆる資料をまとめて整理してどーんとお届けという感じで、読むのに疲れる部分が多少あるものの非常に面白い。




『仮想儀礼

 色んな背景を持った人間の苦悩 「仮想儀礼」


仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)


失業者2人がテレビで9.11を体験し「これからは虚業の時代だ!」と実感したことから宗教を営むに至る、というのが本書の内容。色んな背景を持った人間の苦悩、それに伴った人間模様が細かく描かれているので、それなりに読者の心に重たくのしかかってくる。




死の家の記録

 監獄内という“社会”「死の家の記録」


死の家の記録 (新潮文庫)


本書が書かれることとなった経緯というのは、著者であるドストエフスキー自身が監獄生活を経験したことからということなんだけど、よくここまで事細かく観察していたなぁと驚かざるを得ない。だって彼は元死刑囚だったんだよ? 恩赦が下ったのは死刑執行直前だったんだよ? そういった身分でよくぞ執筆メモとか取っていたよなと感嘆してしまう。




『黒い時計の旅』

 一体何が真実なの?そもそも真実って何?「黒い時計の旅」


黒い時計の旅 (白水uブックス)


本書では、虚構の世界での妄想が史実通りの世界で現実となったりするなど、それぞれの世界がお互いに影響を及ぼし、妄想と現実が混在するという奇妙な状態になっている。気を抜くと一気に置いてけぼりを食らってしまう恐れがあるので注意が必要。一体何が真実なの? そもそも真実って何? という思いがとにかく付きまとってくる。




『戦争における「人殺し」の心理学』

 戦場のリアル 「戦争における『人殺し』の心理学」


戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)


正直、戦争という極限状態に置かれた人間なら誰しも人を殺すということに躊躇なんてしないんじゃないか? と、自分が殺されそうになる前にこちらからやるしかないんじゃないか? と、僕は普通にそんなことを思っていたわけだが、実際はそんな単純なものではなかったらしい。




クリシュナムルティの瞑想録―自由への飛翔』

 解放、自由、浄化、空虚 「クリシュナムルティの瞑想録―自由への飛翔」


クリシュナムルティの瞑想録―自由への飛翔 (mind books)


“思考”という人間にとっては根っこのようなものを否定する思想家を初めて知った気がする。そもそもクリシュナムルティを思想家と呼んでいいのかもよく分からないけれど。正直、彼の境地に到達するのはなかなか難しいものの、本書を読んでいるだけで悩んでいることなどが馬鹿らしくなってくるし、心が洗われる気持ちになるのは確かだと思う。




ゲーテとの対話』

 芸術を分析しつつも楽しんでいる 「ゲーテとの対話」


ゲーテとの対話 上 (岩波文庫 赤 409-1) ゲーテとの対話 中 (岩波文庫 赤 409-2) ゲーテとの対話 下 (岩波文庫 赤 409-3)


こういう芸術家、ましてや色んな分野に対して見識が深い学者肌の人物って、個人的には非常に神経質で近寄りがたい印象を持っていたりする。怒りの沸点が低かったり、社交性が低かったり。しかしゲーテに関しては、そんな可笑しなステレオタイプとは真反対ですごく親しみやすい性格であったらしい。なにより世話好きだったというところがとにかく印象深い感じではある。




マロリオン物語

 血統により運命に逆らえない 「西方の大君主―マロリオン物語〈1〉」
 似た役割の人間増えすぎ 「砂漠の狂王―マロリオン物語〈2〉」
 “魔神”登場で結構ファンタジーしてきた「異形の道化師―マロリオン物語〈3〉」
 貴族と魔術師ばかりのパーティ 「闇に選ばれし魔女―マロリオン物語〈4〉」
 心理戦な最終決着 「宿命の子ら―マロリオン物語〈5〉」


西方の大君主―マロリオン物語〈1〉 (ハヤカワ文庫FT) 異形の道化師―マロリオン物語〈3〉 (ハヤカワ文庫FT) 宿命の子ら―マロリオン物語〈5〉 (ハヤカワ文庫FT)


前シリーズの『ベルガリアード物語』にあったような世界各国交えての戦争というものが無かった分、本作品は冒険してる感が強かったように思うので、個人的には『マロリオン物語』の方が好きかもしれない。でも、両方の作品をひっくるめて考える方が正解なような気がするね。




ゴーメンガースト三部作』

 落ち着かない気分 「タイタス・グローン」
 読み進めるのが少し怖い 「ゴーメンガースト」
 知らない世界に一人で放り出された気分 「タイタス・アローン」


タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 (創元推理文庫 (534‐1)) ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作) タイタス・アローン (創元推理文庫―ゴーメンガースト三部作)


解説の荒俣宏さんによると「この三部作はある意味で、国内に流布する無邪気なファンタジー群に対するアンチテーゼともなる」と興味深いことをおっしゃている。個人的には、3冊目は特に読まなくてもいいような気がしないこともない。




『血潜り林檎と金魚鉢男』

 シュールな世界観に惹かれるものがある 「血潜り林檎と金魚鉢男 1、2巻」


血潜り林檎と金魚鉢男(1) (電撃ジャパンコミックス) 血潜り林檎と金魚鉢男(2) (電撃ジャパンコミックス)


絵柄は可愛いにも関わらず、描写が怖かったりグロかったり、ダークな雰囲気な世界観。個人的にはグロいのは得意ではないんだんだけど、何が起こるか分からない、何が起こってもおかしくない、そんな世界観に惹かれるものがある。