書評家・北上次郎&大森望が選ぶ2012年最強の小説ベスト10
http://www.facebook.com/bsj7pm
NIKKEI×BS LIVE 7PM 「2012年最強の小説ベストランキング」
http://www.bs-j.co.jp/program/detail/22182_201212061900.html
新聞のテレビ欄にて“小説ランキング”と書かれているのをたまたま見付けて、「どうせベストセラーのランキングなんでしょ?」などと思いつつも何となく録画しておいたんだけど、さすが7PM、そんなちんけなものではありませんでした。
書評家2人による、ある意味独善的なベストランキング。そうそうこういうのを見たかったのだよ。ダイエット関連本やらカルト教団代表が書いた本が上位に挙がっているランキングを見たところで何も面白みを感じられないもんねぇ。
出演されていた2人というのは北上次郎、大森望両氏。冒頭にて、これまで長年一緒に仕事をしたりもしているものの、お互いに作品の好みが合わないとおっしゃっていたけれど、確かに2人が選出した作品のうち1作しかかぶらなかったというのは改めてすごいと思ってしまった。
で、そのランキングを見る前に両者による1年の総括を引用しておきたいと思います。
★今年読まれた小説について1年の総括
【北上次郎】
毎年なんですが、実はですねぇ毎年面白いんです。毎年たくさん本が出て、必ず感動する本、泣く本、面白い本があるんです。だから、今年も例年と同じように面白い本がたくさんあってですねぇ、ベスト10に絞るのが大変でした。
【大森望】
やっぱりエンターテイメントの中でも、ここ数年割とね、一時低迷していたSFがぐーっと盛り上がってきているので、その日本のSFがやっぱりだいぶ面白いものが多いというので、選ぶとどうしてもそういうのが多くなってしまいまして、特に贔屓にしてるつもりはないんですけど、はい。
続いて、ランキングは以下の通り。
★北上次郎が選ぶ2012年最強の小説ベスト10
- 『私を知らないで』白川三兎(集英社文庫)
- 『海の見える街』畑野智美(講談社)
- 『小野寺の弟・小野寺の姉』西田征史(泰文堂)
- 『母親ウエスタン』原田ひ香(講談社)
- 『心のナイフ』パトリック・ネス(東京創元社)
- 『アンドロイドの夢の羊』ジョン・スコルジー(ハヤカワ文庫)
- 『暗殺者グレイマン』マーク・グリーニー(ハヤカワ文庫)
- 『百年法』山田宗樹(角川書店)
- 『海翁伝』土居良一(講談社)
- 『美しき一日の終わり』有吉玉青(講談社)
(1位の『私を知らないで』について)
これは素晴らしいです。この人まだ3冊目なんですが、すべて共通しているのはですねぇ、この先どうなるのかが全く読めないんです展開が。絶対にこの冒頭を読んで結末がこういう風になるって予測できる人はいないと思います。
「これは興味深い!」と思ったけれど、大森さん的にはその結末など特別驚かなかったらしい。出演していた日経トレンディ編集長がなぜか作品の展開を言い当ててしまうという空気の読めなささがちょっと面白かった。
★大森望が選ぶ2012年最強の小説ベスト10
- 『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁(新潮社)
- 『屍者の帝国』伊藤計劃×円城塔(河出書房新社)
- 『盤上の夜』宮内悠介(東京創元社)
- 『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル(ハヤカワ文庫)
- 『機龍警察 暗黒市場』月村了衛(早川書房)
- 『百年法』山田宗樹(角川書店)
- 『第六ポンプ』パオロ・バチガルピ(早川書房)
- 『楽園のカンヴァス』原田マハ(新潮社)
- 『おしかくさま』谷川直子(河出書房新社)
- 『インサート・コイン(ズ)』詠坂雄二(光文社)
(1位の『本にだって雄と雌があります』について)
これはほんとに読んでるとどんどん幸せな気持ちになってくるというですね、素晴らしい小説です。特にね、家が本だらけで困っている人ほどね、この本を読んで「そうだよ」っていう、人生の最後まで待つとですね、本だらけで生活空間が侵食されて死にそうな思いをしてる、でも本が捨てられないで困っている人はすごい幸せになれる、ハッピーな気持ちになれる作品です。
改めて引用してみると重複表現が多くて何を言っているのかちょっと分かりにくいかもしれない。でも、そこは察してください。ファンタジー小説を1位に持ってきたところなど、司会の山田五郎さんまでもが意外だったと驚いてました。大森さんなら『屍者の帝国』を1位にするのだろうなと大抵の人は思ったんじゃないかと。
あと、個人的には『おしかくさま』が入っているのがちょっと「お!」と思ってしまった。これは高橋源一郎の元妻の作品なんだけど、彼が選考委員を務める文学賞に受賞したということで話題になっているんだよね、色んな意味で。
そんなこんなで、両者なかなか興味深いラインナップでありました。お互いが作品を紹介するたびにケチを付け合うという、普通では観れないような展開だったというのも妙に面白かった。大森さんが紹介した作品に対して北上さんが「動かすエンジンが全くエンタメじゃない」「これはエンタメじゃないです、文学です」という発言を何回聞いたことやらw なぜ文学だとダメなんだ?
そんな相容れないない2人が共通して取り上げていた作品が1作だけあって、それというのが山田宗樹の『百年法』
原爆が6発落とされた日本。敗戦の絶望の中、国はアメリカ発の不老技術“HAVI”を導入した。すがりつくように“永遠の若さ”を得た日本国民。しかし、世代交代を促すため、不老処置を受けた者は100年後に死ななければならないという法律“生存制限法”も併せて成立していた。そして、西暦2048年。実際には訪れることはないと思っていた100年目の“死の強制”が、いよいよ間近に迫っていた。経済衰退、少子高齢化、格差社会…国難を迎えるこの国に捧げる、衝撃の問題作。
あらすじだけ読んでも面白そうだなぁ、そのうち読みたい。確か、夏に大森さんが同番組に出演していた時にもおすすめとして紹介していたね。
最後、「あえてベストセラーの中から評価する作品」というものも両者挙げていたのでご紹介。
★大森望
『ソロモンの偽証』宮部 みゆき(新潮社)
ソロモンの偽証に関しては2人とも絶賛していました。かなりページ数が多いにも関わらず、そんなことを感じさせない面白さとのこと。
双方ともにそれぞれが挙げた作品に対してケチを付け合っていたのに、最後の最後で意見が噛み合うという奇跡的な終わり方を見せたこの番組。なかなか面白かったです。